2025/05/23 23:03
5月下旬、みかんの花が静かにその役目を終え、枝先には小さな青い実が姿を現しはじめました。まだほんの数ミリほどの小さな命ですが、風に揺れるその姿に、私たち農家は何度でも心を打たれます。
毎年のことなのに、見つけた瞬間、つい顔がほころんでしまう――そんな大切な瞬間です。
みかん農家にとっては、ここからが本当の勝負どころ。収穫までは半年以上。毎日、畑に通っては木の状態を見守り、必要な手入れを重ねていきます。自然が相手の農業では、思い通りにならないことの方が多いものです。日差しが強すぎれば果皮が日焼けし、雨が続けば病気のリスクが高まります。風の強い日には、枝が折れたり、せっかく実った果実が落ちてしまうこともあります。
それでも、私たちはこの仕事が好きです。
草を刈り、病害虫の兆候を探し、枝を間引いて風通しを良くする。地味で地道な作業ばかりですが、その積み重ねがやがて一玉のみかんの味に変わっていくと信じています。私たちの農園では、有機肥料100%にこだわっています。土を育てるところから始まり、木が本来持つ力を信じて、余分な手は加えず、必要なときにだけしっかりと支えてやる。そんな自然のリズムに寄り添う栽培を心がけています。
もちろん、すべてが思い通りにいくわけではありません。台風が近づけば不安で眠れない夜を過ごすこともありますし、猛暑が続けば水の管理に頭を悩ませます。でも、「美味しかった」「また食べたい」――そんなお客様の一言が、何よりも励みになります。
農業は、結果が出るまでに時間がかかる仕事です。いま目の前にある小さな実が、皆さんの手に届くのはまだまだ先のこと。でも、だからこそ、その一粒に込められる想いは深く、強いのだと思います。一本一本の木に話しかけるような気持ちで、毎日畑に立っています。「今年もどうか、無事に実ってほしい」と願いながら。
農業は決して楽な仕事ではありません。でも、この仕事には、人の心を動かす力があります。自然と向き合い、みかんの木と対話しながら、私たちは今日も畑に立ちます。皆さんの食卓に、笑顔とともに届くように。小さなみかんの実と一緒に、私たちの挑戦も、また静かに始まっています。